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■百田尚樹 『永遠の0』    jeudi 26 mai 2011 [■Livre]

神楽坂のKさんに薦められて、百田尚樹 『永遠の0』 (講談社文庫)を読む。

太平洋戦争で戦死した祖父の姿を、祖父が搭乗していたゼロ戦の中国大陸、真珠湾攻撃、ミッドウェー海戦、そして神風特別攻撃と変遷していった経緯と相似する形で浮かび上がらせる。祖父の戦場での言質や飛行機乗りとしての評価は、戦友が語る当時の時代精神と相反する現代的な思考で形成される。

また、アジア・太平洋戦争を起こした帝国主義的な経済問題も捨象され、天皇制に収斂される思想的な問題も提起されておらず、単純なゼロ戦乗りの話として読んでいける。

物語は日本の敗北と祖父が神風特別攻撃隊として戦死するまで直線的に進行していくのであるが、戦後祖母と結婚した義祖父との関係が明かされた時、物語のリアリティは崩壊し小説的物語性に逢着し陳腐なものとなった。作者は放送作家で人気番組の構成をしていたのだそうで、物語の円環が閉じたほうが視聴率も取れ評価も上がるのであろう。しかし、少なくとも300万の日本人が死んだこと、その数だけ不条理で非可逆的な現実の死を迎えている日本人がいることは認識したほうが良い。


主人公の姉の協力者で、朝日新聞と思しき新聞社の記者がいう、「特攻隊員はテロリストだ」という言葉は物語の中では解決されないまま終わる。また今日の認識でも図式化してそう言う人がいるかもしれない。しかし、その言表を形成しているのは誰か、その言表で利する者がいるとすればそれは誰か。私たちはそれを考えなければならない。特攻隊員や日本兵を狂気に塗れた非理性的な存在にしたいのはすべてアメリカ政府なのである。そしてそれを利用したのは戦後日本でもある。テロリスト云々は全く意味を持たないデマゴギーであり虚偽意識でしかない。著者はその言及が欠如している。

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一緒に読んだ本
・堀越二郎『零戦の遺産 設計主務者が綴る名機の素顔』(光人社NF文庫)
・「これだけ読めばよくわかる『ゼロ戦』の秘密」(世界文化社)


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