2017-03-03 [■資料・記事]
2017.03.02 朝刊 4頁 硬派総合面 (全1,115字)
天皇陛下の退位について国会で各党の見解が出そろい、二日から全党派による議論が始まる。政府・与党は現在の陛下に限り退位を認める法整備で決着させたい意向だが、世論は恒久制度を求める意見が多数だ。退位問題は憲法の象徴天皇制の在り方と直結する。天皇制論議に詳しく、退位の制度化を説く憲法学者の石川健治・東京大教授に聞いた。(金杉貴雄)
-憲法の視点から天皇の退位問題をどうみるか。
「憲法には、天皇を『日本国および日本国民統合の象徴』としながら、ごく限られた国事行為しか認めていない、という構造的な矛盾がある。国事行為だけでは象徴の立場を保つには足りない。昭和天皇は『旧現人神』のカリスマで不足を補っていたが、現憲法下の天皇が象徴であり続けるため、国民との結び付きを強固にしようと積極的に動けば、加齢による身体的な限界に達する。皇室典範に退位システムを導入しない限り、この矛盾は解けない。憲法が古希を迎え、起こるべくして起こった問題だ」
-退位でなく摂政や代行を置く方法もあるが。
「国事行為についてだけなら可能だが、象徴としての行為は性質上代行がきかないので解決にならない」
-一代限りと恒久制度のどちらが望ましいか。
「憲法が予定する象徴天皇制に皇室典範が対応できていない。現陛下一代に限る対応は基本的に誤りだ」
-なぜ恒久的に退位可能な制度にすべきなのか。
「憲法の価値の体現者として四六時中振る舞うことを義務づけられる象徴天皇は、憲法で負わされる非常に重い公職。その負担から降りる可能性を担保しなければ、本来はその重さとのつり合いがとれない。欧州の立憲君主国がそうであるように、立憲主義の見地からは退位の制度は必要だ」
-立憲主義は憲法で権力を縛る考え方だ。
「権力を縛る目的は、あくまで個人の自由を確保するため。憲法上の人権を天皇が主張できないにせよ、人間宣言後の天皇に人道的な配慮は必要。恣意的(しいてき)な退位の可能性などの課題はあるが、欧州の王室法でも問題を抱えつつ認めているように、本人意思が基本だ」
-本人意思の退位は「天皇は国政に関する権能を有しない」との憲法四条に反するとの意見もあるが。
「むしろ国政への権能を持たないからこそ、本人意思での退位を否定するのが難しい。退位の判断自体は国政に関する権能ではなく、安定的な皇位継承が難しい状況ではない限り、憲法違反には当たらない」
◇
いしかわ・けんじ 1962年生まれ。東京大法学部卒。東京都立大教授を経て、2003年から現職。「立憲デモクラシーの会」呼びかけ人の一人。戦前、戦後の天皇制論議に詳しく、法律専門誌に「天皇の生前退位」と題した論文を掲載した。著書に「自由と特権の距離」など。
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