■上村松園展 その2 近代美術館 samedi 2 oct,2010 [■museum]
近代美術館で行われている「上村松園展」の後期展示を観に行く。
後期の入れ替え作品として「序の舞」(1936年)、「砧」(1938年)が展示されている。
松園さんは同じ材、構図で描いたものが何枚かある。
婚礼に向かう女性の着物の柄と下唇に青を差した「人生の花」(1899年)、帯と着物の色を変える「鼓の音」(1938年と40年)など極めて興味深い作品である。どちらも模倣が存在するのではなく、二枚で一つの作品といえる。「新蛍」(25年)と「簾のかげ」(29年)もその系譜であるが、いずれも若い女性の様態が充分に表されている。
展示作品には作品名と制作年が書かれているが、年齢も併記されていてそれがまた驚かされる。大作「序の舞」は1938年の作品であるが、松園さんが61歳の時の作品。「砧」は63歳である。この集中力たるや驚愕するばかりだ。
常設展にまわると、岡本太郎や佐伯祐三、藤田嗣治の作品に交じって、香月泰男さんが一枚展示されていた。
「釣り床」(41年)という、海岸の一角を思わせる白い地面に釣られたハンモックに乗った海パン一枚の丸坊主の少年の絵があった。少年は真っ黒に陽焼けしていて、夏の午後を思わせる配色だった。しかし、香月さんがその2年後出征しシベリアの極寒の地の抑留を描くシベリヤシリーズを発表していることを知っている我々は、その褐色の少年の膚が、シベリヤの日本人兵士の暗黒の絶望と重なり、香月さんの絶望を暗示しているように思えてならないのだった。そして、香月さんのライターだった立花隆さんが号泣し続けた15年も前のテレビの一場面が、数日前のことのように蘇ってきた。
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