■森鷗外「じいさんばあさん」 samedi 28 novembre 2009 [■Livre]
森鷗外に「じいさんばあさん」という短篇がある。
文化六年四月江戸の大名屋敷の空き家に翁媼が日を開け同居する。二人は遠慮がちな隠居生活を始める。その年の暮、将軍徳川家斉の命によりばあさんに銀十枚が下賜される。
元大番石川安房守総恒組美濃部伊織七十二歳と、妻るん七十一歳である。二人は伊織が三十、るん二十九の時に結婚する。(当時の年齢からすればかなり遅い結婚だろう)
伊織は二条城詰めで京都に行き、寺町通の刀剣店で百五十両の古刀を見つける。常に胴巻きに着けている百両と、二十両負けさせた残り三十両を用立てて手に入れる。伊織が親しい友人二三人と刀の披露で呑んでいると、その金を都合した下島が来て、自身を招かない件を口汚く詰り、膳を蹴返し出て行く。伊織はそれに腹を立て斬ってしまう。下島は後日それがもとで死ぬ。
伊織は越前国丸岡(福井県坂井)に預けられる。るんは伊織の祖母を追り、息子も夭折する。るんはそれから三十一年間女中奉公をし、美濃部家の墓の香華を守り続け、隠居を許され故郷の安房に帰る。その間越前国で手跡や剣術を教え暮らしていた伊織が三月漸く許され江戸に帰ることとなった。そして三十七年ぶりに生活を再開する。
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