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■フィリップ・クローデル『リンさんの小さな子』   vendredi 17 oct,08 [■Livre]

フィリップ・クローデル
『リンさんの小さな子』 
(高橋啓・訳 みすず書房 2005年)
Philippe Claudel "LA PETITE FILLE DE MONSIEUR LINH" 2005

生まれたばかりの孫娘サン・ディウを抱き戦禍のヴェトナムから6週間の船旅をしてフランスに渡って来た老人リンさん。そして、何ひとつ言葉の分からないフランスの公園で出会うバルクさん。彼は2カ月前に奥さんを亡くしている。
(因みに、この小説ではリンさんの祖国がヴェトナムであるとも、難民となって渡って来たのがフランスであるとも述べられていない)

ヴェトナムには早くに死別した妻と、戦争で亡くなった息子夫婦、そして既に戦禍に失われた平和な村の記憶があるだけで、最早身寄りは無い。ましてフランスの地にもリンさんを知る人は誰もいない。そして公園で偶然に遭った2人が友人になった。リンさんはバルクさんのために、難事務所から自分は吸わない煙草を毎日1箱支給させる。バルクさんは言葉の通じないリンさんに20歳の頃従軍したインドシナ戦争での残虐を告白し号泣する。そして、奥さんとの思い出のレストランに招き、サン・ディウのために可愛いドレスを贈る。2人はまったく言葉が通じない。ただ、「こんにちは」という言葉しか通じない。

リンさんは難民の一時的な滞在所からお城のような施設に移されるが、バルクさんと会うために施設を脱走する。バルクさんが待っている公園にサン・ディウとともに向かう……。

リンさんが解するフランス語は「ボン・ジュール」だけ。バルクさんが使うヴェトナム語は、リンさんの名前だと思っている「タオ・ライ」という挨拶のことばのみ。つまり、ふたりは「こんにちは」でしか交感していないのだ。
もうひとつの言葉、リンさんの人形ような孫娘の名前「サン・ディウ」は、リンさんの国の言葉で「穏やかな朝」という意味なのだそうだが、それをフランス語で生きるバルクさんは、<sans dieu> =「神・無し」と連合する。なんというイロニーか。リンさんの「人形のような孫娘」は、かの地においては生まれた時から神に祝福されていないのだ。

リンさんの小さな子

リンさんの小さな子

  • 作者: フィリップ クローデル
    訳者: 高橋啓
  • 出版社: みすず書房
  • 発売日: 2005/09
  • メディア: 単行本

高田馬場「ベンズ・カフェ」のテラスで読んでいた僕は、人目も憚らず滂沱の涙(ウソだけど)で結末数ページを読むことになった。
気持ちの良い秋の休日となった。
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