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■追悼 今村仁司さん   jeudi 10 mai 07 [■追悼]

今村仁司さんが今月の5日に亡くなられた。65歳だった。
アルチュセールを学ぶのに、今村さんの『歴史と認識』(新評論 1975年)に如何に助けられ、導かれていったことか。古典としてマルクスを読むことと離れ、アルチュセールを経て現代的にマルクスに対峙するために絶対的に必要なものだった。

廣松渉さんが亡くなり、岩波書店から『廣松渉著作集』が刊行された折、今村さんが共同編集者に名を連ね、また2巻(10巻、14巻)について解説を書かれていたのに意外な気がした。このたびのことで『歴史と認識』を開いてみたところ、今村さんがこの本を為したのは廣松さんのおかげだと謝意を表わしているのに出会いました。そのような縁があるとは思いも依りませんでした。

二人は、1984年9月号の『理想』で「構造変動論のパラダイムを求めて」(清水博・生物物理学、塩沢由典・経済学、とお二人)という座談会をおこなっている。その後それを受ける形で、廣松さんは、『エピステーメー』(第2次第1号 1985年8月)に構造論、「第一信 構造変動論の論域と射程」という論題で連載の第一回を始める。そのなかで第三項排除論に対してこう述べています。

   <ドゥルーズたちは、平面的・単層的な構造に対して、超越的な第三者を立てることで、構造をひとまず立体化して議論を展開します。ここにはコード問題その他が絡みますし、具体的に応接すべき論説が多々介在しますが、粗っぽく言い切ってしまえば、過剰との絡みでの第三項排斥の構図がベースになっております。そこではマルクスが貨幣に関して論じたさいの或る部面をも配視しつつ、狭義の商品世界から貨幣が排出される仕組みと同趣の構図が立てられていることを、誰しも容易に看て取れる筈です。(略)しかし、単なる排除の論理だけでは、排出された第三項がもとの平面内(での〔閉じた区域の〕外部)に留まることを何ら妨げません。人は一般商品に対する貨幣を“比喩”的に思い泛かべたり、平民に対する王者の関係とそれを二重映しにしたりすることで甫めて立体化された構造を表象する次序となります。第三項の排除的特異化は、よしんば必要条件であっても、それ自体では立体的構造化を説明したことにはなりません。まさにこの立体化の機制が説明の要件なのです。しかるに、人はとかく、貨幣とのアナロジーでたかだか必要条件を尤もらしい手続で頭に植えつけられただけで、あの“比喩”的コノテーションをおのずと混入し、まるで一応の説明か済んだかのように錯覚してしまいます。――(略)小生が何をひとまず言っておきたかったは、ドゥルーズ・ガタリ達の議論を御承知の大兄には判って頂けると念います。――今村仁司氏が「第三項排除」論を「暴力」や「労働」論と絡めて積極的に構想されている所以のものも、右の問題点を氏が自覚されればこそのことだと小生は諒解しております。正直のところ、小生はまだ氏の第三項排除効果論を十全にはできずにいますし、氏自身にもまだ未展開の部面が残っていてそれが理解の障りになっているのではないかと想ったりもしますが、氏の構案がいわゆるポスト派の俗流的議論の準位をアウフヘーベンするものであることまでは小生にも判っているつもりです。>
(『廣松渉著作集 第14巻』「構造の形成・維持・推転の機制」p236)

廣松さんは、別の領域で用いられる理論を他の学問領域に安易に転移し、普遍的論理であるかのように類型化する知的怠慢を批判しながら、今村さんの「第三項排除論」を慎重に別けている。第三項排除つまりスケープゴートは「暴力」の概念であり、貨幣と資本の機能なのである。私には『ミル・プラトー』の国家論と第三項排除論の差異がいまひとつ掴めないが、近代がもたらした抑圧装置は常に機能しているのである。今村さんの一連の考察は最終的に近代の知の陥穽を表出させる理論的武器になるのだ。

80年代に書かれた論考は「現代思想」や「思想」に連載されたものであるが、体系的な書物にまとめていただきたかった。このことが残念でなりません。


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塩沢由典

今村仁司さんが2007年5月10日に亡くなられていたのですね。
このプログで初めて知りました。上に言及されている座談会のほか、
今村さんには別の機会にもいろいろと機会を作ってもらいました。   
by 塩沢由典 (2008-12-17 18:37) 

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